付加価値とは
『暮らしの土台となる安心や機能にその人らしい心地よさや美しさを重ねていくもの。』
その意味には、人間性が関係してくるのではないかと、私は考えています。
人類が住まいを構えた理由。
それは、生きていくための知恵だったのだと思います。
風や雨をしのぎ、外敵から身を守る。
洞窟に身を寄せていた時代の住まいには、ただ「生きるため」の本質がありました。
やがて人は、安心だけでなく、心地よさや美しさ、
さらに人とのつながりや自分らしさを求めるようになります。
そうして住まいに意味を重ねながら、
人間らしい暮らしをかたちづくっていったのだと思います。
その積み重ねの中で、「付加価値」という概念が生まれてきたのではないでしょうか。
けれど、当たり前のことですが、付加価値とは“付け加えられる価値”です。
そこには必ず、もとになる“本質”が存在しています。
住宅に関わる仕事をする中で感じるのは、
家づくりを考えるとき、その「もとになるもの」が後ろに下がってしまう・・
そういう場面があるということです。
そして受け手である私たちプロ側もまた、本質よりも「どのような付加価値を提案するか」に意識が向きやすい現実があるように感じます。
人類の誕生から数十万年。
現代では「お金」というひとつの尺度を通して、暮らしにさまざまな価値が付けられるようになりました。
たとえば、キッチン。
フルフラットの対面キッチンは、長く人気があり、多くの方が憧れを持たれます。
価格帯も高価なものが多く、空間が広く見え、インテリアとしても美しい存在です。
ここまでの流れから、その魅力をさらにお伝えする話と思われるかもしれませんが、
ここでは少し視点を変えてお話しします。
フルフラット対面のキッチンは、インテリアとしても美しい存在です。
ですが本来、キッチンは“日々使う道具”でもあります。
ご家族のために揚げ物をよくされる方。
忙しい毎日の中で、お弁当箱や水筒の出し入れが負担になり、つい出したままになってしまう方。
これから二人で暮らしを組み立てていく、新生活の方。
「リビングが広く見えるから」
「素敵だから」
「一目で気に入ったから」
その理由は、どれも間違いではありません。
実際に、上手に使いこなしておられるご家庭もあります。
ただその一方で
そのキッチンが間取りに合っているのか。
ご自身の暮らしに合っているのか。
家事動線や、他の空間とのつながり。
ご家族の人数や、キッチンに立つ時間。
そうした視点が十分に整理されないまま、進んでいく場面もあるように感じます。
プランを形にする側と、理想を思い描く側。
その想いが重なり、打ち合わせは楽しく進んでいきます。
そして完成した住まいは、思い描いた通りの美しさを持っています。
けれど、その空間で、これから毎日を過ごしていくのは誰なのか。
この視点は、外さずに持っておきたいところです。
大切にしたいのは、「暮らす人の本質」です。
人にはそれぞれの性格や、これまで積み重ねてきた生活のリズムがあります。
住まいが変わることで整うことはあっても、本質そのものが大きく変わることは多くありません。
多くの住まいづくりに関わる人たちは、経験として知っています。
整えられた空間も、時間とともに、そのご家族らしい暮らしのかたちへと
変わっていくことを。
暮らしが重なっていく中で生まれるその変化は、
特別なことではなく、ごく自然なことでもあります。
だからこそ、
家づくりの段階で大切なのは、見た目の理想だけではない
どのような毎日を送りどのような性格で、どのような心地よさを求めているのか
そうした“もとになる部分”を、確認しながら進めていくことだと思います。
家は、何のために、誰のために存在するのか。
その問いに向き合いながら進める家づくりは、決して派手ではないかもしれません。
時には立ち止まって考える時間も必要になります。
けれど、その積み重ねが、
暮らしにとって意味のある「付加価値」につながっていくのではないでしょうか。
私は、目に見えるデザインや仕様だけでなく、その前にある「暮らし」と、
その先にある「日々の使い方」までを、切り離さずに考えたいと思っています。
迷ったときほど、
「それは本当に、自分たちの暮らしに合っているのか」
の問いに立ち返ること。
その繰り返しが、結果として無理のない、続いていく住まいにつながるのだと思います。
華やかさや分かりやすさだけではない、少し現実的な視点も含め
住まいづくりの選択肢は、一つではありません。
『付加価値』を楽しみつつ、『本質』も忘れない。そんな家づくりの大切さをお伝えしたく、
今日はこのコラムをつづりました。


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